2013年秋、田窪恭治は故郷、松山空港ターミナルビル1階に佇んでいた。高さ4.1メートル、幅6.9メートルのステンドグラス「蜜柑、ミカン、みかん」の完成を確認するために。日本交通文化協会の依頼を受け「南予の海岸線に広がる段々畑」を表現。故郷の玄関口にふさわしい素材を伊予の蜜柑に求め、エアーターミナルならではの壁面ステンドグラスに仕上げていた。
2014年、5作目のイヤープレートは田窪の原点でもある伊予の蜜柑。例年どおり有田の白磁に呉須のコバルトブルーの線で描かれている。ノルマンディの林檎から始まったイヤープレートの作品も60歳を過ぎ故郷の素材へと回帰してきた。この「蜜柑、ミカン、みかん」からまた新たな田窪ワールドが広がるのかという予感が漂う逸品である。製造は宮内庁御用達の深川製磁、白磁の質がすばらしい。2013年秋、多摩美大の先輩でもある14代酒井田柿右衛門が惜しまれながらこの世を去った。